就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の個人データを分析することでその学生の内定辞退率を予想し、そのデータを本人の同意が不十分なまま、複数の企業に販売していた。プロファイリングという手法を利用した分析だが、大きな波紋を呼んでいる。
自分に関するデータが知らないうちに勝手に販売されていた学生にとってはショックだろうが、そうした情報を購入した企業の名前が報道されていることにも注目すべきだろう。高度情報化社会では、情報を売る方も買う方も注意深い対応が求められる。今回のケースで言えば、ユーザーである学生に対して、プロファイリングの情報を販売する可能性があるということをリクナビがもっときちんと説明すべきだった。それでも学生がリクナビを使いたいと言えば、大きな問題にもならなかっただろう。
ただ、個人についての情報を売買することは、それがたとえユーザーの同意を得たうえとは言え、難しい問題を伴う。リクナビのように誰でも気軽に利用できるプラットフォームは、ユーザーの匿名性がある程度守られているということが大前提となっているからだ。
貨幣でも検索エンジンでも、世の中の多くの人が利用するものは、ある程度の匿名性が維持されているからこそ多くの人が利用するものだ。仮に、あるプラットフォームが匿名性を尊重しないような姿勢を示せば、より匿名性の高いプラットフォームにユーザーは流れるかもしれない。プラットフォーム上でプロファイリングの手法で集められる情報は経済的な価値が大きいが、匿名性を大きく損なうようなプラットフォームはユーザーからの支持を得られないかもしれない。
プロファイリングという手法は今後さまざまな分野で利用可能となる。どこまでそのデータを活用するのかということが問われる。ましてやそのデータを他者に売るのかどうかということになると、さらにハードルが高くなる。
プロファイリングといえば、「習慣の力」(チャールズ・デュヒッグ)の中で紹介されている大手小売業ターゲットの事例が興味深い。ターゲットは顧客の中のどの家で出産が予定されているのか知りたかった。赤ん坊が生まれる前と後では、多くの消費者の行動パターンが変わるからだ。驚くべきことに、ターゲットカードを利用した消費者の購買行動を分析すれば、かなりの精度でどの家に赤ん坊が生まれそうなのかということが予想できるようだ。
ターゲットはこの情報を第三者に販売したわけではない。自社のビジネスに生かそうと考えただけだ。しかし、ターゲットの利用者から見れば、自分のところに赤ん坊が生まれるかどうかをターゲットが知っていて、それを利用して宣伝をしてくるというのは気持ちのよいものではないはずだ。消費者は誰でも、自分の知らないところでプライベートな情報が分析されることを気持ちの悪いものと考えるのだ。(学習院大学国際社会科学部教授)