就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が、就活生が内定を辞退する確率を人工知能(AI)で予測し、本人の十分な同意なしに企業に有償提供していたことがわかった。背景には売り手市場が強まる中、優秀な人材を確保したい企業の切実な事情もある。リクナビは就活産業で高いブランド力を持つだけに波紋を広げそうだ。
「学生が内定辞退するかどうかは常に気をもんでいる」(広告代理店)。企業が内定を出し終えた6月中旬以降、多くの企業の人事担当者は内定者のつなぎとめに頭を悩ませている。2020年卒学生の6月末時点の1人あたり内定数は2・2社(マイナビ調査)。複数の内定を抱える学生も珍しくない。
内定辞退者が相次いだ場合、追加で内定を出したり、選考したりするケースもある。業界では「票読み」と呼ぶが、前出の広告代理店の担当者は「面接での受け答えなどで学生が内定辞退するかどうかを見極めるしかない」。発覚したリクルートキャリアの個人情報データの利用は、こうした状況が背景にある。
問題視されているのはリクルートキャリアが展開する「リクナビDMPフォロー」と呼ぶサービス。当該企業における前年度の応募学生のリクナビ上での閲覧ログなどのデータを解析。「内定辞退率」を算出して企業に提供していた。18年3月のサービス開始以降38社に対して、試験的に提供したという。
個人情報保護委員会が事実関係の確認を始めており、リクルートキャリアは7月末でデータ販売を休止した。
リクナビの規約では、行動履歴などの利用について「採用活動補助のための利用企業等への情報提供(選考に利用されることはありません)」と明記していた。だが個人情報保護委は「どう使われるか本人にわかるようにしないと不十分」と指摘する。しかも明記したとはいえ膨大な箇条書きの規約の最後の方に記されており、利用者の目に入りにくい状況だった。
今回の問題について、都内国立大学大学院2年の女子学生は「どのような仕組みで算出したのかよく分からないですね。リクナビが就活を操作していると言えるのでは……」と困惑した表情だ。
ネットやスマホを使った就活が当たり前になっているだけに、立教大学キャリアセンターの阿部通明課長は「個人情報がどう使われているか、学生がキャリアセンターに問い合わせるケースが増えている」と述べる。
リクナビはマイナビと並ぶ就活情報サイト(ナビサイト)大手。就活ではナビサイトへの登録が活動の第一歩とされてきた。登録すれば、採用スケジュールなど必要な情報が手に入る。セミナーへのエントリーも簡便にできる。企業説明会やセミナーなどのイベントも開催しており、就活業界での存在感は絶大だ。
一方で「ナビサイトに登録すると興味のない会社からもたくさんメッセージが来て迷惑」(都内私立大4年の男子学生)という声もある。
ある建材メーカーの人事担当者はナビサイト経由で応募する学生が減っていることを危惧。「特に理系学生が取れていない」といいナビサイトの限界を感じている。
最近増えているのが、学生がプロフィルを登録して企業からのオファーを待つスカウト型と呼ばれるサービスだ。「ナビサイトがなくても就活ができる」(早稲田大学4年の女子学生)と断言する学生もいる。
こうした状況下で「ナビサイトでは個人情報が適切に扱われない」と判断されれば、ナビサイト離れが加速する可能性も否定できない。